小松川の思い出
2017年08月14日
再開発された江戸川区小松川は瀟洒なマンションが立ち並び公園には四季の草花が綺麗に咲き誇って晴れた日などはどこか美しく整備された観光地かと錯覚させている。とても下町江戸川区とは思えないだろう。平井、小松川地区は電車で都心まで10分という立地のよさと子育てに熱心な江戸川区でもあり大小のスーパーもある生活のしやすさを考えれば住みたい町ランキングの上位にどうして入らないのかとかつてそこに住んでいた者としては不思議でならないのだがそれはさておき再開発される前は大小の工場と住宅、木造アパートがひしめく町であった。そこに住む人たちは中には悪い人もいたようだが幸いにも私が出会った人たちはみんな良い人であった。車のバッテリーが初めて上がったとき突然のことで狼狽していたら近所の話したこともないおっさんが直に自分の車と繋いで助けてくれたりと気さくで親切な人たちと出会った。さまざまな多くの人々たちの中で一人印象に残る50代位の男がいた。
フロなしのアパートに住んでいたので銭湯に通っていたのだがそこで時々会うなにか気になる男は、身長は平均くらいだががっしりした体型でいかつい風貌になにかしら翳のようなものがまわりに漂っていて話しかける人もいない。その男も常に寡黙で過去になにかあったかと思わせる雰囲気ながら体を洗い終わればそそくさと帰っていく。
ある日平井駅に向かう真っ直ぐな一方通行の道を歩いていて、地元の人は分かるだろうが五月みどりの実家でそっくりの綺麗な妹さんが店に出ていらしたお肉屋さんのあった近く横からの道と交わるあたりで後ろからその男が自転車に乗って自分の横に現れた。昼間の明るいときに会うのは初めてと思う間もなく右から自動車が近づいてきてかなり接近した所で止まった。歩行者の通行を妨げる道路交通法違反行為に当たる。それでありながら運転していた男はかなり不満顔であったのがちらった見えた。とりあえず車は止まっているのでその前を通り駅に向かう。その時後ろで車のドアが開いて閉まる音が聞こえ胸騒ぎを感じた。緊迫したなにかが後ろで起こっているなと感じたのである。取って返すとちょうどその男が運転していた30代位の男を家の壁に押し付けて財布からお金を頂いているところだった。僅か30秒程である。まさしくプロであった。30代の男も相手が誰だか知らないで多分文句を言ったのだろう。その男は警察に代わり違反金を頂いたのか。
その後なぜか銭湯で会うこともなく暫らくして私も小松川を離れることになりその男は記憶に残るだけとなったのだが、印象が強すぎてあの無言で繰り広げられた光景は見てもいないのに頭の中ではっきりと見えているのだ。
尚、本ブログは暴力を礼賛するものではありません。
米田正之